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「若胡子屋・女郎鉄漿事件」の遺址 [中国地方の旅]

「おはぐろ事件」

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「き」の文字の上、中央下あたりに滲んだ手の跡が見えませんか?


おはぐろ事件は、壁に残った禿(カムロ:花魁の世話係の幼女)の手の跡にまつわる伝説です。

昔は人妻になると「お歯ぐろ」をつけて歯を黒く染める習わしがありました。
たとえ一夜の妻とはいえ、花魁に「おぐろ」をつけさせて一夜を契ることは男の甲斐性でもあったわけです。
またそれをさせる程の上客でなければ通客として、もてはやされなかったのでしょう。
これには莫大な金がいります。
花魁の機嫌をとることは勿論ですが、回りの人達にも沢山の祝儀をやらなければなりません。

ある日のことでした。
「もーし、おいらんえ、おはぐろつけなんせ」と言葉やさしくかわいいカムロが、
歯ぐろ壷を花魁の前へ差し出しました。
花魁は羽根筆にお歯ぐろをたっぷり含ませて、鏡に向かって付けはじめました。
しかしどうしたことか、この日に限ってうまく付きません。
他のお歯ぐろ壷と取り替えさせましたが、これもまた思うようには付きません。
何度繰り返しても今日に限ってうまくいきません。
客は金の威光で、まだかまだかと矢のような催促です。

花魁も気が気でなく、癇は高ぶり、厚化粧の額には思いなしか青筋が浮かんでいました。
カムロは、小さな胸を痛めながら震えていました。
ひと際高まる三味線、太鼓の音。

「えー 口惜しい…」絹を裂くような叫び声をあげて、あろうことか花魁は煮えたぎったお歯ぐろを、
側にいたカムロの口にいきなり注ぎこみました。
カムロは歯を食いしばり、虚空をつかんで、のけぞって倒れました。
口からはお歯くろ混じりの黒血が流れていました。
支度部屋の壁にもたれるようにして死んでいったカムロの顔には、深い恨みがこもり、
つり上がった目尻からは一筋の涙がにじんでいました。
薄暗い行灯の明かりに、花魁の放心した影がゆらいでいました。

それからというもの、ひとり鏡に向かって化粧をする花魁の鏡に、かすかに滅入る様な声で
「も~し、おいらんえ、お歯ぐろつきなんしたか、、」とカムロの影がうつるようになりました。

あくる日も、またそのあくる日も。。。花魁は幾たびか気を失いました。
さすがに全盛を誇った花魁もいたたまれなくなり、前非を悔いて、四国八十八ヶ所を巡って、
カムロの霊を忌おうと思いたち今治へ渡りました。

すると「も~し、おいらんえ、それでは此処からひとりで行きなんせ」と一言いい残し、
カムロの影は消えていきました。

古びた壁に残されたカムロの「お歯ぐろ」の手形は、その後幾度か塗り替えられましたが、
今なお滲み出て、その跡をとどめています。

このような伝説には、いくらかの素地になるものがあったと思われますが、
裏庭にある遊女八重紫の墓がこの物語を秘めているようです。〈説明文写し〉




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花魁が使っていた鏡



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